July 8, 2019

【581】まるネコ堂第一期を完了とする。

20年とちょっと。まるネコ堂という名前をつけてからやってきた。名付けたときには今の物理的な場所であり、自宅でもあるこの家も土地も僕のものではなく、他人のものだった。僕のものになる予定もなかった。まるネコ堂という名前は、ただ、僕が個人でやっている活動の主体という程度のものだった。

「まる」というのは実家で飼っていた猫の名前で、まるネコ堂を名付けたときにはすでに死んでいた。だから、まるネコ堂という名前の「まる」と「ネコ」は僕の過去からの拝借に過ぎない。この名前にまつわるその時点での未来は、だから、ただ「堂」という一文字にだけ込められている。

当時は、住職のいなくなった廃寺のお堂のようなところをイメージしていて、たまたま近くを通りかかった旅人が雨宿りにやってくるようなところを作ろうと思っていた。屋根のある空き地ぐらいの意味だ。それが未来のイメージで、この時点では、空き地も屋根もなく、ただ僕の幻想にのみ存在していた場所だ。

そのころの僕は大学院を中退し、特にあてもなく実家に戻って、未来のビジョンもなく、開放的な寂しさだけを抱えていた。雨宿りできる場所があればそれでいいと、ただ思っていたのだと思う。

それが、いつだったかもう忘れてしまったけれど、個人事業の屋号になり、やがて、自宅を兼ねた物理的空間の名前にもなって、今にいたる。

まるネコ堂への最初の発注者は父親だった。彼の個人のウェブサイトを作った。正確には、まず発注と仕事があり、その受注主体として「まるネコ堂」を作ったという順番だ。こう書くと事業っぽく見えるが、実態は、失意にまみれた息子に、彼の自尊心を傷つけない方法で、父がお小遣いをくれようとしたのだろう。たしか毎月1万円で請け負って、今で言うブログのようなページ更新を僕が人力でやっていた。その父親はもういない。

約20年かかったけれど、まぁ、当初の「堂」の幻想は現実になった。屋根のある空き地ぐらいにはなった、と思う。

よって、特に区切りっぽい区切りでもないけれど、第一期をここに終了する。

第二期はこれから考えていくことにする。第二期というものの存在そのものも含めて。

まずは再び幻想の世界へ船を出す。現実の世界とは、しばしお別れ。


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