May 9, 2025

第5回まるネコ堂芸術祭レビュー、その2

他の出展者の作品への感想です。

オニィ・ワールド

大谷 美緒(「あんころもち」)

6歳のアラタが描いた鬼の絵を元にしたLINEスタンプやシール。「芸術作品」というよりももっと、気軽、気楽、身近、チープなところに表現の領域を作り出している。「作品を作ること」が主目的というよりも、「作り続けたさ」を自分(達)に与えようとしている。作ることを継続するために綱渡りのように断続的に成果を実らせていくスリリングさ。
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ZINEつくってみた!

西村 眸

写真、イラスト、テキストの混じったzine。写真のシャープな印象とテキストのちょっと不思議な感じ、イラストの可愛らしさに色々な自分自身が表現されている。それぞれの異なるキャラクターが入った「雑誌」的自分。自分を部分として扱わないでいる。トップの写真は展示場所でもあるその部屋を最近写したものなのに、なぜか異国情緒や遠くの憧憬、懐かしさを感じさせる。
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からだを感じる 見ている意識

宮後 りさ

展示空間の構成が練られている。突き当たりの薄暗がりに浮かび上がる青い絵が、展示方法と相まって印象的。今回は絵画がメイン作品だろうけれど、インスタレーションをやっても面白そう。冊子の形で提示されたテキストは固有名詞が説明なしにどんどん出て来て、隙間が多いが、生身の正直な感覚が描かれていて独特のドライブ感を持っている。読んでいる側が積極的に埋めようとして文章に引き込まれていく。
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私とカーテン、付き合いたて

佐川 友美

布の質感がとても良い上質なカーテン。こうして作品として提示されると、これまで僕がカーテンというものに「貧相な役割」しか与えて来なかったことに気付かされる。美術作品としてのカーテンと言うと柄やレースといった装飾的な要素を思い描いていたが、無地で生成り、シンプルな縫製がとても機能的で美しかった。日差しの透け具合が絶妙。手縫いであることを納得させる存在感がある。たしかに、カーテンとも長く一緒に過ごしていけるとうれしいなと思った。
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波を乗せて、海は、まわる

今井 雅子

昨年まではモビールを作っていたのに、今年は起き上がりこぶしなのか、とちょっと驚いたけれど、作品を見るとモビールと同じ雰囲気があり、実は同じ「ジャンル」になり得るのかと発見があった。物理的運動と美的造形の重なった場所を、一つの表現領域として提示している。風鈴や風車なども同じ場所にあるかもしれない。揺れと光・色が重なるアイデアを形にする制作技術の洗練を感じる。
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さかなのすゆみー星になる 〜アートは自分から自分へのギフト〜

すゆみ

一部屋全てを作品で埋めるパワー。溢れる色、形、物語が、躊躇いなく表に出ているように思える。貪欲さや欲張ることを肯定している感じがすがすがしく心地よい。やってみたいことに果敢に挑戦していくことやその結果の失敗、挫折に苦しむこともすべて内部に含んだ、力強い肯定的な赤い部屋。

狭間に揺れる情景

濵田恒太朗

昨年までの「ヨハネの黙示録」シリーズを現代の自分自身の境遇の中で解釈し直している感じ。日常の中の東京の街並みを、黙示録的に見える瞬間として捉えているようにも見える。そういえば僕も、何年に一度、ものすごいとしか言いようのない夕焼けに遭遇して、「あの夕日に見える赤い球体は、実は、遠方で炸裂した新型爆弾なのではないか」と身震いする時があるが、それを思い出した。制作過程の「うまくいかなさ」を露呈した冊子が添えられており、そのメイキング・プロセスに独特の魅力があるが、完成した油画作品が与える印象とズレがあって、それが一致してくると、さらに奥行きがでるかもしれない。

祈り

山本成実

内容的には、「自分なんて」という「隠れている」表現だけど、選ばれている画材は、しっかりした製本のMDノートにペン。一度書いてしまえば、失敗したと思っても、書き直したり、ページを破ったり、別の色で塗り込めたりできない。あたかも下書き無し、推敲なしで、いきなり書きつけたかのように見える。独特のリアリティとみずみずしさがある。


どの作品も何かを感じたり思ったり考えたりと触発されるものがあり、この作品たちが存在するなかで過ごせたのは有意義でした。


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