March 11, 2021

【791】製作日誌【芸術祭まであと51日】

 連日のように夢を見る。それなりに力を入れて文章を書こうとしている時期は夢の頻度があがる。昔はひどい悪夢を見た、というようなことは以前の日誌にも書いた

 今は目が覚めると忘れてしまっている程度の夢が多いが、昨晩のは久しぶりに強度が高く、夢を見ている最中に目が覚めた。こんな夢だ。

 僕は芸人で、後輩芸人とどこかの酒造メーカーのチューハイかなにかのCMに出演する。その後輩芸人がチューハイのイメージキャラクターに抜擢されたのだ。僕と後輩芸人は同じコンビではないが、普段から仲が良い。僕は他の誰かとコンビを組んでいるが、今日はその相方は登場しない。僕はいわゆるツッコミだ。後輩芸人はたぶんピン芸人で、芸風は天然でいつもぼーっとした感じ。人が良さそうな顔でへらへら笑っている。何が面白いのか説明しにくいが、彼を中心になんとなく可笑しみが広がっていく、そんなタイプだ。僕とその後輩芸人は昔からの知り合いだ。お互い売れなかったころから友達だった。
 CMの撮影現場は、その酒造メーカーのビルの一階。本社ビルだろう。広いロビーがある。その片隅にオープンなミーティングスペースがあって、打ち合わせ用のテーブルと椅子がある。そこに後輩芸人がすでに座っている。テーブルには、チューハイの缶が何本かとコンビニで買ってきたような適当なツマミが袋のまま雑然と散らばっている。カメラマンや照明などの撮影スタッフがその殺風景なテーブルを取り巻いている。
 そんなおよそCM撮影現場とは思えないところに僕が現れる。半信半疑で、本当にここでやるんですか、という顔をしている。後輩芸人はすでにテーブルに座ってにこにこ笑っている。脚本のようなものは一切なく、スタッフからは「いつもお二人で飲んでる感じで」とだけ説明される。
 僕は、スタッフに挨拶をして椅子に座る。すでにカメラは回っている。
 「これCMだよな。こんなんでいいの?」と僕はさきイカをつまみ上げながら後輩芸人にきく。
 「いいみたいです。いつも先輩と飲んでる感じで飲んでればいいらしいです。」
 後輩はすでにチューハイの缶をあけて飲んでいる。ラベルがカメラに見えるようにして不自然に持つといったような映りの配慮はまったくしていない。両手で缶を抱え込むように持ってちびちびやっている。僕は不安になって、スタッフのほうを向いて、いいんすか?と口を動かす。スタッフは笑顔で頷いている。
 僕も仕方なく缶を開けて後輩と乾杯をする。一応、カメラ目線で缶を顔の横に持ってきたりしてみるが、そういうのは特に求められていないようでスタッフの反応は無い。
 「いつも二人で飲んでる感じで」というオーダーに答えようと後輩との会話の糸口を探す。
 「それにしても、すごいよな。お前にCMなんて。聞いたとき俺も嬉しかったよ」
 「自分でもびっくりです。僕にCMなんて。」
 しかし、広いロビーの一角に置かれたテーブルで、どうしても会話に入り込むことができない。周りが気になる。
 「ほんっとにこんなんでいいんですか?」と声に出してカメラに向かって不審な顔をしてみせる。その様子をさらに引いた位置から手持ちのカメラが撮っている。照明があたったテーブルについている場違いな二人の男。それを撮影する大きなカメラ、頭の上辺りに迫るマイク。それらを手持ちのカメラが遠目に狙っている。
 僕はだんだん飲み込めてくる。ようするにこの陳腐で貧乏ったらしい二人の芸人の飲みを明るみに引きずり出してやらせるというシチュエーション自体をCMとして見せるという趣向なのだろう。
 「CMの仕事なんて、俺のところには来てないのに。先を越された」
 「僕も初めてで心配だから、先輩も一緒だと安心できるんですけどって言ったら、いいですよって。それでこうなったんです」
 「そんなんで呼ばれてるの俺?」
 ピーナツを小袋から出してつまんだりしながら、普通に飲んでいく。だんだん、二人とも酔いが回る。後輩は泣き上戸らしく、
 「ここまでこれたのは先輩のおかげですよ。ほんとに感謝してます」
 などと言いながら泣き出す。
 そのうち、後輩が抱きついてくる。最初は手で払い除けたりするが、だんだん激しくなっていく。僕は耐えきれずに、椅子から立ち上がる。カメラマンや照明さん、音声さんが動く。
 「もうわかったからわかったから」
 それでも後輩は両手を広げて迫ってくる。僕はテーブルから逃げ出して、ロビーを走る。後輩が追いかけてくる。撮影スタッフもあとを追うが振り切られる。その様子が引きの手持ちカメラで撮られている。
 僕も後輩も酔っているとは思えないほどの全速力でロビーを走り抜けていく。二人とも、その滑稽さをわかってやっている。後輩も本当は酔っていない。ロビーを抜けて手持ちカメラですら追いきれず画面から消えてしまう。しばらくして、僕と後輩は抱き合ってお互いを抱えるようにして、肩を叩きながら歩いて戻ってくる。元のテーブルまで戻ってくると、さっきまでいなかった若いスーツ姿の男が一人座っている。男の前にはチューハイの缶がきれいにピラミッドのように積まれている。
 「え?だれ?」と僕が驚いてみせる。
 「〇〇(会社名)の〇〇です。」と男は笑顔で自己紹介する。画面には「〇〇株式会社、広報宣伝部」というテロップが出ていそうだ。
 「ここの会社の人?」と僕がきく。
 「はい。」と若い男がこたえる。
 「ほんとうにこの会社の人?」と僕が疑う必要のないことを疑う。
 「はい。ほんとうです。」と男がこたえる。
 カメラはその様子を撮っている。さっきのロビーを走り去る立ち回りで、映像的には一山作れているが、そろそろオチをつけなくてはという気分がしている。僕はとっさに、若い広報担当者の前にピラミッドのように積まれた缶を一つとって、
 「じゃぁ、本社の住所、言って」と若い男に迫る。
 若い男がひるんで、笑顔がひきつる。
 「本社の住所、言えるでしょ。当然。」と僕は缶に書いてある住所を見ながら更に追い打ちをかける。
 「東京都、〇〇区、・・・、〇〇、1-3」と若い男はかろうじて住所を答える。
 ここで、目が覚める。

 製作とは全く無関係な日誌になってしまった。


●5月1日、2日
4月初旬に詳細お知らせできそうです。


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