June 28, 2020

【719】「言葉にならない」が言葉を支える。

6月27日の『中動態の世界』第6章意志と選択のゼミ用に書いたレジュメの一部。
この本を読むと吉本隆明の自己表出について考えが及ぶことが多い。

▼言葉と思考。心の動きと出来事の描写。自己表出。
 言葉として存在しないことが、直ちに存在しないとは言えないのは当然のように思えるが、これは、言葉の無能さ・限界を指し示すと同時に、言葉というものの存在原理でもある。

 僕たちが何かを体験した。その体験は素晴らしいもの、あるいは、ひどいもの、あるいはまた平凡なものだった。しかし、どのようなものであったか「言葉にすることが出来ない」「筆舌に尽くしがたい」「言葉にするとどこか違ってしまう」と思うことはよくある。ここで終われば、文字通り「言葉にならなかった」となる。多くの場合はこのようにして言葉というものの限界点を示して、その体験の痕跡に留まる。しかし、一部の例外的な場合、それでもなんとか表出しようとして、歩を進める。その手段は、ともかく自分が体験した出来事を述べることになる。出来事の描写である。そして、その述べたてたところの言葉を別の人間が受け取って、その体験を再現することで、「言葉にすることが出来なかった」はずのその「何か」を体験したと感じることができる場合がある。出来事の描写しか言葉になっていないにも関わらず、曰く言い難い感情や感覚や思考や、いわゆる心の動きのような、話し手の内部に生じたそれらの渾然一体と成った何かが、受け手にも発生する場合がある。言葉自体が「出来事の描写」しかなされていないからといって、そういった「言葉にならない」ものが存在しなかった、ということにはならない、という言ってみれば当たり前のことがここにある。

 この「言葉にならない」もの、何かを指し示すことができないもの、であるにも関わらず、書き手にただならぬ何かを引き起こし、読み手にも感取されたそれそのものを吉本隆明は自己表出と呼んだ※。言葉というのは、その自己表出性が、ともかく何かを指し示すということそのものである指示表出性と交差し折り合うことで「言葉になる」。「言葉にできない」という沈黙は、多くの人たちにとっては言葉の限界であるが、別の人には言葉の可能性である。言葉の側から記述すれば「言葉にならない言葉にできない」その「ならなさ、できなさ」の抵抗的事態そのものが、言葉というものの支持体であり、言葉を存在させ変動させてきたと吉本は見ていた。

※語のレベル(文法レベル)で言えば、助詞などの、指示性が低くても、何かを引き起こすことができるものは自己表出性が高い語となる。


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■近々開催のまるネコ堂の催し
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●12月15日から21日:言葉の表出、冬合宿2020

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June 24, 2020

【718】6月24日の文章筋トレ。

よく晴れて風もある気持ちの良い日だったが、それはこの辺りのことで、zoomで当たり前にやるようになってくると天気の話もひと味違ってくる。ここではない場所の天気になぜか親身になったりする。今日は3人。平日はだいたいこのメンバーになる。カエルさんとみどりさん。僕。

10分と60分をやる。

3人ぐらいがちょうど良いという感想がある。時間的な余裕はこれぐらいが僕も良い。話題の保持度合いもちょうどいいかもしれない。

それと、これぐらいの人数だと、自分が誰と一緒にいるかを見失わないで済むという感覚はある。僕だけなのかもしれないが。

こういうことと書くことや読むことは、近いところにあるかもしれない。

書くとか読むというのは無防備な死角だらけの状態に思える。お互いに何かをやり「合う」のではなく、むしろ「合わない」という前提があるかもしれない。人が居るとか居ないとか言うことの階層が普通とは違う感じがある。それで良いこともあるし悪いこともある。

月イチ土曜日の人混み感もあれはあれでいろんなことが起こる。一方で、少しじっくりが良いという方は平日がおすすめ。

そもそも文章を書くのがうまいとか下手とかそういうこととはちょっと違う、しかし真面目な文章の場所です。気になった方はお問い合わせください。

あなたの文章を読むことが楽しみです。


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June 20, 2020

【717】6月20日の文章筋トレ。

今日は満席。主催者含め全部で6人。これだけの人が書いて読んで感想を言えばそれなりのことは起こる。書くことはそれぞれで、共通に目指す場所があるわけではないが、一人の人間がフルパワーでやればそれなりの場所を占める。そうして他者と接触することになる。

10分と60分をやる。

書くことは孤独だ、と言えば孤独だけど、言葉というのは共通性としてもあるわけで、どんなに書くことが孤独であったとしても、何かを通じてしまうとも言える。書いても書いても花が咲くかはわからない。咲いたとしてもどんな花かもわからない。でも、土は良くなりましたねぐらいのことは言える。


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June 18, 2020

【716】本当かどうか、わかりませんよ。

『ことばと』の真ん中より少し後ろに載っている保坂和志さんの「胸さわぎ」に、

でも注意してください、私は「察しがいいイコールすぐれている」とは言ってません。察しがいいというのは一種の反射神経のようなものだし、相手の気持ちを先取りしたり敏感に共感共振したりする一種の相槌能力にすぎません、ギンバイカは南米のたぶん熱帯雨林に生えている大木です、大理石は大理石です。[136]

という、著者本人に似ていそうな尾花氏がカルチャーセンターの講師として話しているところが、保坂さんらしいなと思う。保坂さんは小説家として思考していて、それがどういう思考なのかは、もう少し後に、

だから食人をはじめた第一世代の人が百年後の食人に参加しても違和感を感じない、と尾花氏は言った、尾花氏はこういうことをだいたい毎回思いつきでしゃべる。
「だから正しくは〈第一世代〉という考えもインディオにはないんですね。すべての物や事は永遠の昔から今あるかたちで彼らはやってきている。
 本当かどうか、わかりませんよ。
 ここには本当かどうかとぼくたちがつい考えてしまうような選択肢的発想というか懐疑主義と言うか、そういう発想はないんです。」
 一部の人を除いて全員が「それ、よくわからない」という顔をした、その顔をしなかった一部の人である四人か五人は頷いたわけではなく笑い顔になった、面白いと思ったらそれを信じる人たちということだ、[142]

と喋っていて、どういうものかがわかるようになっている。

本当かどうかは脇において、面白いことを大真面目に考えていくのが保坂さんの小説家の思考で、それで言えば、小島信夫は、本当かどうかなんて最初からどうでもよくて、面白いことを素で書いてしまう、ナチュラルボーン小説家だ。空想や妄想を書いているのではない。空想や妄想かどうかなど、最初からどうでもよい、ということだ。だから小島信夫の思考には空想や妄想が無い、というか、空想や妄想という概念自体がずっと後方に置かれている。それを本当かどうかという正しさに寄りかかって読者は読むのだから、ざわついてしかたがない。小島信夫を読んでいると僕は自分でも意識できないレベルの根本的な自分の人間としての倫理がこの人とは通じ合わないのかもしれないという恐怖をどこかで覚える。今『寓話』を入手したくてしかたがない。一度借りて読んだ。生粋の欲しい本だ。



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June 15, 2020

【715】『ことばと』買った。

ことばと』買った。HMKに教わった。vol.1を買った。vol.2が出る前に買った。

読めてよかった。千葉雅也、ウティット・へーマムーン、阿部和重だ。ウティット・ヘーマムーンが特に良かったと今は思っている。他の作品も読みたいぐらいだ。

この三作はたぶん文体が好きだ。僕が好きな文体だ。僕が好きな文体を読むと僕は、向こう側で光がきらめいている亀裂を感じる。好きでない文体はぺったんこだ。書かれていることだけしか浮かばない。紙に張り付いた文字が張り付いたままだ。せいぜいが映写機のようにその像を浮かばせてはくれる。

書かれていないことが紙を引き裂くように現れると僕はワクワクする。そんなことはどこにも書いてない。詩の力を手放していない。媒介しない。紙を破ってしまいたい。

雑誌を買い続けようと思ったのは何年ぶりだろうか。



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