October 6, 2014

【020】死者の言い分

父の書斎。
片付けるのは容易ではない。
5月に父が死んだ。僕は生まれて初めて喪主をした。通夜の後、葬儀場に泊まりようやく時間ができて、喪主とは何かを一晩考えた。

そもそも、この葬式は父が死んだから引き起こされたことで、父が当事者である。死んでいるからこちらに何かを伝えることはできないけれど、今起こっていることの主であることは間違いない。意思が伝達できない状況にあるからといって、その人がいないことにはならない。喪主はあくまでも生者の代表でしかない。生者は誰も死んだことがないから死者の側にある言い分を正確に知ることはできない。死者の言い分は、生者の代表たる喪主よりもさらに「前に」ある。喪主は死者と最も近いが不完全な〈代理人〉である。

そうわかったからといって大したことができるわけではなくて、その時点で僕にできたのは、通夜のレイアウトでは参列者が父から遠すぎたので、式場に無理を言って翌朝の葬儀の椅子の並べ方を変えたぐらい。そんなことを父が望んだかどうかはもちろんわからない。

すでに死んだ人、まだ生まれていない人、生きていないけれど言い分はある。



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