August 20, 2015

【221】僕の原爆。(5)

シリーズ「僕の原爆。」

目次
【158】僕の原爆。
【201】僕の原爆。(2)
【216】僕の原爆。(3)
【217】僕の原爆。(4)

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原爆ドームの横を過ぎて橋をわたる頃からだろうか、低音の体に響く管楽器の音が聞こえる。橋を渡ると平和公園になる。音は少し早足に歩くぐらいのテンポでブォ、ブォ、ブォ、ブォと単調なリズムで、その上に美しい旋律のようなものが乗っかっていない。あるいは旋律というものがあるのかもしれないけれど、あったとしてもおそらくは高音で繊細で、遠くここまでは辿り着かない。あとで近くまで行って知るのだけれど、それはやはりメロディのようなものが極めて希薄で、ただただ重厚さを単調に積み重ねるだけのような音だ。荘厳さという便利な言葉があって、それを思い浮かべては、そうではないという気持ちがしてきて、僕が荘厳さを拒否する。ただ暗く重くたち込めている。しかし、リズムは足を前へ前へと運ぶように刻まれていて、このまま何処かへ連れて行かれるから、それはどこかと思い巡らす。足元に積み重なる低音が体全体を乗せてベルトコンベアーのように、どこかへ僕は行ってしまう。

むっきーと話をしたのかと思いだそうとするのだけど、全く思い出せない。むっきーは確か、少し僕のうしろを歩いていて、大勢の人がひとつの方向へ進んでいるのだから、とても大勢だけど道に迷うということもないだろう。だから、僕はむっきーのことを時々忘れて、ただ前へ運ばれていく。ボーイスカウト、ガールスカウトの子どもたちが献花用の花を配っている。僕は受け取る気持ちにならなくて、一緒に配っていた式典の冊子も受け取れない。何か、まだ、僕にとって途中だ。花や冊子は、何か、もう、終わってしまったことにしている。ただ、女性がおしぼりを配っているところでは積極的にもらうことにした。昨夜、どこかに落としてしまった手ぬぐいの代わりをどうしようかと思っていたのを、おしぼりどうぞという言葉で思い出して、これで都合が良い。夏の暑さが、朝の気持ちよさを追いやろうとし始めているから、まだ凍ったままのおしぼりは、そろそろ、ありがたい。大きな管楽器から響く音が、大きくなってき、密度が増してきている。

びっしりと並べられた椅子が公園を埋めている。式典会場の外を取り囲むように、もう、人垣もできているのに、まだ7時だ。式典までは1時間あるし、式典自体は45分で終わるのに。想像以上の人の多さに僕は圧倒されていたのだと思う。まだ空席があるのが見えると、それほど悩むこともなく、むっきーと一般席へ入る入り口の列に並ぶ。入り口では、持ち物検査をしているけれど、列はどんどん長くなっていきそうだし、検査をしているのはおそらく広島の行政職員で、手馴れている感じはない。持ち込んでいはいけないものが何であるのかは、特に明示されていない。ここまで来るときに見かけた「ドローン撮影は禁止です」というような看板を思い出して、ドローンらしきものを探しているのかとも思うし、空港でチェックされるペットボトル飲料とかだったら、一本入っているけど、リュックの中身をばらしてそれを出すのは面倒だなと焦る。僕の番になって、リュックをテーブルに置いてみたら、お互いに遠慮がちに、危険なものは入ってないですよね、はい、で通り過ぎる。

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