人が全身で書いた文章を読むのは本当にゾクゾクする。気の利いた言い回しや面白い切り口、わかりやすい言葉、なんてものをすべてうっちゃって、そういう小手先の技で届く範囲を遥かに超えてただ歩いて行く。一文字一文字の文字それ自体によってその文を一から構築していくような文章は素晴らしい。
それがすでに著名な人の本であっても、その思考を一文字一文字追うように読むのはとてもスリリングだ。しかしもっともっと面白いのは、自分のすぐ近くでその思考を今まさ...
October 22, 2015
October 14, 2015
【催し】「読む・書く・残す」探求ゼミ 第2期
第1期のときもそうなのですが、
小林健司さんの案内文がすごいです。
毎回、もうこれで終わりかもしれない、
もう僕なんかいなくても「探求」はできるんじゃないか思いながら、
やっています。
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10年以上、誰かの書いた文章に手を入れる「編集」を
仕事にしてきた大谷隆さんの見方を手がかりにして、
集まった方々と「読む」ことを再発見していきます。
現代の日本では、言葉は情報を伝えるための道具として
使われることがほとんどです。
し...
October 12, 2015
【237】『はてしない物語』。喩の逆作用。
まるネコ堂ゼミで『はてしない物語』を読んだ。
ファンタージエンの地理の特殊な点について説明しておく必要があるだろう。ファンタージエンでは、陸や海、山や河が人間世界でのように固定した場所にあるのではない。だからたとえば、ファンタージエンの地図を作ることはまったく不可能なことだ。(略)この世界では計ることのできる外的な距離というものはなく、したがって、「近い」とか「遠い」とかいう言葉も別の意味を持っている。それらはすべて、それぞれに定め...
October 6, 2015
【236】僕の原爆。(11)
シリーズ「僕の原爆。」
目次
【158】僕の原爆。
【201】僕の原爆。(2)
【216】僕の原爆。(3)
【217】僕の原爆。(4)
【221】僕の原爆。(5)
【222】僕の原爆。(6)
【232】僕の原爆。(7)
【233】僕の原爆。(8)
【234】僕の原爆。(9)
【235】僕の原爆。(10)
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秋田に行くと、僕の誕生日なのに、なぜか弟も一緒にお小遣いをもらった。僕のは小さく折ったお札を紙に包んだやつで、弟のは硬貨だったのが救いだった。僕達が着いた日の夜は、和風レストランから大きな寿司桶に入った寿司が届いて食べたりした。残り物のタネらしく、とても偏りがあって半分ぐらいがマグロの赤身だったりする。寿司は大好きでそれでも喜んで食べた。親戚が近くで洋食のレストランをやっていて、そっちは単にレストランと呼ぶのだけど、レストランからはエビフライやカツがどっさり届いた。そういったご馳走をおじちゃんの家に親戚が集まってみんなで食べる。僕の誕生日ということのはずなのに、僕が特別な感じがしなくて、よく僕の誕生日なんだからと母に愚痴をこぼしていた。いつだったか、おじちゃんが誕生日プレゼントにおもちゃを買ってやるというので、商店街のおもちゃ屋に弟と一緒にいって、何でも好きなのを選べと言われた。僕は15ゲームを選んだ。15ゲームというのは、正方形のプラスチックの枠に、その枠を16等分した小さなパネルが入っていて、それぞれに1から15までの数字と残りの一つは星マークなんかがついていて、その星マークのパネルを取り外して、残りの15枚のパネルをそのひとつ空いたところで順番に指で移動させていって、1から15の番号を縦に並べたり、横に並べ変えたり、ぐるりと渦を巻くように外からだんだん数字が大きくなって、真ん中のところの4枚が13、14、15、空白になるようにしたりするおもちゃで、ほんとにこれでいいのか?とおじちゃんにきかれた。いい、と僕が言って、今度は弟がずっしりと重量感のある電車の模型を買ってもらい、家に帰るとおじちゃんが、隆は安くてこの電車で10個ぐらい買える。とそこにいた人に言って回った。そう言われるとなぜか悔しかったのだけど、僕は15ゲームをその後もかなり長い間しつこく遊んでいて、弟は比較的早く電車に飽きたから、ほらやっぱりこれでいいと、今でも僕は思う。...
【235】僕の原爆。(10)
シリーズ「僕の原爆。」
目次
【158】僕の原爆。
【201】僕の原爆。(2)
【216】僕の原爆。(3)
【217】僕の原爆。(4)
【221】僕の原爆。(5)
【222】僕の原爆。(6)
【232】僕の原爆。(7)
【233】僕の原爆。(8)
【234】僕の原爆。(9)
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そういうことをなぜ覚えているかというと、毎年ちょうど誕生日の頃に、僕は夏休みでもあるので、10日ほど僕は母と秋田へ帰っていた。実家は商店街の酒屋で、店に入ると独特の、酒とコーヒーと乾物が入り混じったような匂いがしている。左手の棚に酒が並んでいて、いつだったか、秋田沖で地震があった時はそれが全部落ちて割れて、店中がアルコールだらけになったらしい。それ以来、棚の酒瓶の前に細い鎖が取り付けられていて、しかし、それでまた同じような地震が来た時に瓶が倒れないですむとは僕には思えなかった。あの地震があった時は僕は宇治の家にいて、津波が来たらしく、浜の松の防砂林がそれを防いでくれたというような話を聞いた。浜の松は強い風でどれも同じ角度で斜めになっているのだけど、津波というとその上を越えてくる波を想像して、そういう大きな波も防いでくれるものだろうかと、これも半信半疑だ。...
【234】僕の原爆。(9)
シリーズ「僕の原爆。」
目次
【158】僕の原爆。
【201】僕の原爆。(2)
【216】僕の原爆。(3)
【217】僕の原爆。(4)
【221】僕の原爆。(5)
【222】僕の原爆。(6)
【232】僕の原爆。(7)
【233】僕の原爆。(8)
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献花台の前からは、いつもは無いだろう柵が並べられていて、そのまま前に進むことはできない。仕方なく、ぐるりと左手に回りこむようにして、また資料館の前にたどり着く。水を配っている。ちょうど喉が乾いていたし、この暑さだと水を飲んだほうがいいと思って近寄ると、給水所を示す看板にどこか不似合いな手書きの紙が貼り付けてある。水をください。水をください。そう言い続けて死んでいきました。代わりに生きている皆さんが水を飲んであげてください。ここでは何もかもが70年前に直結している。今ここにある現実は、紛れも無く現在だけど、1945年だ。太いパイプで結ばれているすべての8月6日は、いつも暑く、いつも重い高圧の中にある。毎年毎年決まって暑い夏の日だ。...
【233】僕の原爆。(8)
シリーズ「僕の原爆。」
目次
【158】僕の原爆。
【201】僕の原爆。(2)
【216】僕の原爆。(3)
【217】僕の原爆。(4)
【221】僕の原爆。(5)
【222】僕の原爆。(6)
【232】僕の原爆。(7)
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立ち上がるのも歩くのも億劫だったのが、ようやく周りの席の人たちもまばらになって、会場から離れられる気分になった。もともとこの日は、式典の後、むっきーとは別行動をすることにしていて、僕は午前中のまだ涼しいだろう時間帯に、大手町の祖母と父の家のあった場所と西観音町の祖母の実家のあった場所に行こうと思っていた。むっきーは、式典の後、僕と別れて、呉の戦艦大和のミュージアムに行ってこようと思っています。その後、広島駅で3時に合流しましょう。そういうつもりだった。そうして、午後3時頃に広島駅から、また7時間ぐらいかけて京都に帰ってくる。...
【232】僕の原爆。(7)
シリーズ「僕の原爆。」
目次
【158】僕の原爆。
【201】僕の原爆。(2)
【216】僕の原爆。(3)
【217】僕の原爆。(4)
【221】僕の原爆。(5)
【222】僕の原爆。(6)
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なめらかな川面が、岩に近づいていつの間にか流れを変えているように、気が付くと式典になっている。その中にいると、ただ不意に自分の周りの空気が狭くなる。ぎゅうっと流線が絞られて前方への方向性が生まれる。コンクリートの巨大な馬の鞍のようなモニュメントが見えてくる。むっきーに、そのモニュメントの方向を説明するのだけれど、むっきーには見えないらしく、どこですかと言っている。そのモニュメントの前に小さな人影の頭の部分が現れて、挨拶が始まる。音声が非常にクリアに聞こえる。あるいはスピーカーの近くだからなのかもしれないが、これだけの人数が平らな場所に集まって、それでも全員が式典の内部であるのだと、集まった人すべてに思わせられるような舞台装置を知り尽くしているのか、とても明瞭で力強い言葉が聞こえてくる。...
【231】なぜ書くのか。
なぜ愚にもつかないことを書くのか。
僕は考え事を止めることができない。僕にとって、世界はただ在るだけで刺激に満ちていて、風が常に僕に考え事の種を運んできてしまう。次から次へと運ばれてくる種が芽吹き、伸び、葉や花や実をつけていくのから目を離せなくなる。そんな植物が常にいっぱい生えていて、いつも少しずつ変化し続けている。
はたから見ればただぼーっとしているようにしか見えないだろうけれど、そういう時の僕は静かに狂気が進行していて、絡みあ...
【230】「人間の基底」に関するメモ。
メモとして。
考え事が僕というものをこの世界から切り離し続けている。
考え事が終われば、僕はこの世界に再び戻り僕は世界に統合される。
考え事が始まる前は、この世界に僕という輪郭は、その他の全てと同様に、形作られていない。考え事をした瞬間、〈僕〉が抽出され、その〈僕〉が、ただひとつの世界に対峙するものとなる。
この〈僕〉というのに〈我〉という名前をつけて、この〈我〉を消すという大きな挑戦をしているのが仏教だ。自然というものの原点を...
October 2, 2015
【229】10月31日まるネコ堂・なっちゃんの影舞、ご案内
影舞をやります。
影舞というのは、これまたなかなか説明しにくいものなのですが、
二人の人が指先だけを触れ合わせて、自由に動く、そんな舞です。
なっちゃんと僕の案内文、
お読みいただけると幸いです。
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▶日にち :10月31日(土)
▶時 間 :13:30-17:00
▶場 所 :まるネコ堂
京都府宇治市五ケ庄広岡谷2-167
▶アクセス:JR奈良線・京阪宇治線「黄檗(おうばく)駅」から
徒歩15分ほど。坂道を登ります。迷いやすいです。
http://marunekodosemi.blogspot.jp/p/blog-page_7.html
▶世話人 :小林直子
▶参加費 :3000円
▶定 員 :6人
▶主 催 :小林直子、大谷隆
▶申し込み:marunekodo@gmail.com(大谷隆)まで。
注意:猫がいます。会場には入れませんが普段は出入りしています。
アレルギーの方はご注意ください。
翌日から「二泊三日 まるネコ堂円坐」(守人:小林健司さん)があります。
http://www.fenceworks.jp/info.html#/detail/7241572692591428820
こちらもご覧ください。会場での宿泊が可能です。(雑魚寝、寝袋有り)
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なっちゃん(小林直子さん)は書いている。
影舞は、相手の指先と自分の指先を触れ合わせる。触れているその間に蝶をはさんでいるように、触れた一点に集中する。その蝶の羽が破れないように、放してしまわないように相手の指先にそっと触れる。触れたところから、舞がはじまる。[小林直子、『fence...