January 17, 2020

【570】風邪と宣伝、集中と偏在。

風邪が流行る季節。保育園の日誌も緊迫感が増してきた。

保育園は風邪などの感染症が流行りやすい環境なのだけれど、当然のことながらウイルスや細菌が「園内で新たに発生」するわけではない(こんなことが起こったら世界的な大事件)。親が職場や電車などで感染し、それが子供に感染って、子供から子供へ感染していく。だからうちのかかりつけの小児科医は「親の」インフルエンザ予防接種を推奨している。すべての園児のすべての親(と保育士)が感染症にかからなければ園児が感染することはない(極めて小さい)。園児が接触する人は、親と保育士であり、それ以外はほぼいないから。保育園の特殊性がどこにあるかというと一旦感染者が出ると「他の園児に感染しやすい」ということだ。

この「感染しやすい」という環境は、学校や職場、満員電車などもそうで、言い換えると「多数の人が近くにいる」こと、つまり「集中している」場所だ。他にも温度や湿度などウイルスや細菌に好適な条件が関係するだろうが、好適条件が整っても肝心の人がいなければ人の感染症は伝染らないから、結局のところ「人が集まっている」ことが「感染する」ことの本質である。

さて、この「人が集まっている」ことをもう少し現象的に見てみる。人が集まっていると、そこで起こることは、複数の人によって同時に体験される。起こったことを複数の人が同時に目撃(接触)する。簡単に言えば、多くの人に同じことが同時に起こるということだ。

感染症の場合は、これはマイナスなのだけれど、全く同じ理由で宣伝には都合が良い。感染力と宣伝力は同じもので、語の持つネガティブさやポジティブさを取り去れば、影響力といった語彙になる。影響力は「人が集まっている」ことによって増大する。

影響力を手っ取り早く行使したい人は人が集まっている場所に行けばよく、人を集めることができる人はすでにある程度の影響力を持っている。そして、この影響力という語彙が自明的に持っている世界観は「集中」である。

この「集中系」に対して、逆側の世界観が設定できる。「偏在系」と名前をつける。偏在系の世界観は、それぞれがバラバラに存在していて中心がない。集まりは、せいぜい小麦粉の「ダマ」程度のものである。影響の広がりは穏やかで、多くは世界中に到達することなく、各所で小さく広がりやがて消えていく。感染しにくく、宣伝しにくい。

偏在系の世界観では、誰も世界全体を見通すことができない。誰もが自分には見えない領域があることを知っていて、自分に見えている領域よりも見えてない領域のほうが大きいことも知っている。多くの人に同時に目撃されることや多くの人が同時に体験することは少なく、必然的に示すこととして「出来事というものは自分だけが体験するのだ」という方向へ行く。共感や共通は、第一義的には希薄になり、もしも共感や共通が発生するとすれば、それはある種のマジカルさを必要とする。

集中系では、同じ流行歌を聴いて、同じとみなせる体験をした人たちが同じ気持ちになることを「共感」と呼ぶが、偏在系では、異なる体験をしているにも関わらず、なぜか、同じ気持ちを想起することを「共感」と呼ぶ。

集中系では、自分の存在の周囲に人を集められる人が力を持つが、偏在系では、自分の存在とは異なる場所と条件で多発的に発生していくようなことが力を持つ。

集中的世界観では、自分の目で確かめることが重要視されるが、偏在系世界観では、自分の目で確かめられないことが重要視される。例えば、集中系では、豊かさは「自分が享受するもの」として捉えられ、自分が享受できないものは豊かさには含まれない(あるいは小さく見積もられる)が、偏在系では「自分の手元にはない」ということが豊かさを定義づける。

熱力学の第二法則では、時間経過に伴って乱雑さ(エントロピー)は増大し、逆はない。世界が一つの断熱系だとすれば、世界は集中から偏在へと進む。



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