May 18, 2018

【410】いまさら読む東浩紀『存在論的、郵便的ージャック・デリダについて』

面白く読みました。

恐ろしく整理されています。特にフロイト、ハイデガー、そしてデリダがきれいに整理されている。このあたりが著者の聡明さなんだと思います。 少なくとも本書はデリダ読解の一つの基準線になっていると思います。

後半やや込み入ってきますが(というか「まぁそうなるよね」っていうオチになるのだけど)、基本的には二分法を再帰的に駆使するすっきりした論述が貫かれているので読みやすいです。信じがたいことに、デリダ、ハイデガー、フロイトその他もろもろを読み込んでなくても読めます。読めました。

「否定神学システム」。これが本書における著者の主砲です。当然、批判的に使われます。特異点的(単数的)否定表現で語ると、自動的に「否定〈神学〉」に飲み込まれるという壮大な罠(ハイデガーすらハマった)として書かれています。パワフルです。

本書を読みながら何かに似てると思っていたのですが、ブルーバックスでした。講談社が出しているシリーズで、相対性理論だとか量子力学だとか、いわゆる「科学」をわかりやすく解説してくれる本です。中学高校のころ、夢中で読みました。あれに似ている。哲学版のブルーバックス。

ブルーバックスを読んでいた頃はSF好きでした。あの、科学的に理路整然と「世界が裏返る」ような感じが本書にもよく出ています。のちに著者がSF小説を書くことになるのはとてもよくわかります。本書を若い精神が読めば、その世界に導いてくれるかもしれません。物理学や数学と哲学とが親和する領域へ。

で、さて。

本書は「ジャック・デリダについて」という副題がついています。しかし、本当にデリダはそういうことなのだろうか、という疑問が湧いてきます。そういうことかもしれないけれど、そうではないことはなんにもないのだろうか。そうではないことがもしあったとして、デリダについてそれは重要ではないということだろうか。これは自分でデリダを読んでみてから判断したいと思います。

東浩紀さんの本は、本書以外にこれまでに『ゲンロン0』『一般意志2.0』『動物化するポストモダン』『クォンタム・ファミリーズ』『現代日本の批評1975-2001』(共著)を読みましたが、おすすめだと思うのは、次の本(商業的には失敗したとのことですが)と本書でした。ので、並べてリンクしておきます。

 

『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』はたしかに位置づけの難しい本です。ただ、そんなことになっていたとは全く知らなかった、という単純な衝撃を受けましたし、知れてよかった、読んでよかったと思いました。続編の『福島第一原発観光地化計画』も読みましたが、これはさすがに乖離が激しく(だからといって必ずしも悪いとは思わないのですが)なかなかおすすめし難いので、興味があれば。



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