March 16, 2015

【100】リュックという物理的存在を売る心地よさ。

物理的存在であるが故の融通の効かなさが、
「本当に気にいる物」の少なさに直結する。
2014年12月にリュック屋になった。
正確にはパートナーの澪とともにリュックの製造販売事業を開始した。

これまでの僕の仕事は、主に紙物(雑誌、書籍など)の企画、編集だった。
それが、リュックのような商品を扱うようになって、大きく変わったことがある。

それはリュックが物理的存在だということに起因している。

オプションやカラーバリエーションがあるとはいえ、リュックの型は一つ。調整は基本的にできない。

「ちょっとサイズを大きくしてほしい」
「ふたの留め具をマグネットにしてほしい」
などの細かな要望を時々頂くけれど、現時点ではお断りしている。

理由は、不可能、もしくは不適切であるから。

2年に渡る開発中、考えられるだけのプランを練り、各種の部材を試した。
その結果、製品として提供できるものは、これ以上は無い。
もちろん、状況は変わるかもしれないけれど、今のところは。

たとえば、製造ロットがものすごく増えれば、帆布は現在の8号ではなく9号が使える。
たとえば、真鍮の金具のメーカが作る種類が増えれば別の金具が使える。
などなど状況の変化に応じて変更はしていく。

でも、現時点では「できない」。
ご要望にお応え「できない」。

この「できない」という対応が、企画、編集の仕事では実は難しい。

「やらない方がいい」ということは言えても、「できない」わけではないことが大半で、結果として「やらざるを得ない」。

文章やデザインという非物理的存在のため、不可能性が低いためだ。

だから、リュックを売り始めて、今まであまり言うことがなかった「できません」を連発して、最初はちょっと後ろめたかったけれど、よく考えるとこれ以上の応答はできないのだから、誠実であるためには、そう言って頭を下げるしかない。

この、売る側・作る側の覚悟である限界の認識が、今はとても心地が良い。



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