「80%以上が緊急事態宣言の発令を支持」ソフトバンク孫正義Twitterアンケート調査(ニューズウィーク日本版)
元になったアンケートはこちら。
https://twitter.com/masason/status/1246029457015459840
「緊急事態宣言をすぐに出すべきだと思いますか?」という質問に「はい」か「いいえ」で答えるアンケートだ。
当たり前のことを確認していくが、このアンケートに答えている人々は基本的には「日本に住んでいる日本人」ということになるだろう。厳密な意味で「日本人」とは何を指すか、といったことは今は問わない。
つまり、ここでいう「緊急事態宣言」は、アンケートに答える人自身に対して「出される」宣言だ。日本以外の外国が危機的状況にあって、「その国に緊急事態宣言を出すべきか」と訊いているわけではない。
緊急事態宣言で可能になる措置
今回の緊急事態宣言は、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくもので、可能になる措置は以下。
・外出自粛要請、興行場、催物等の制限等の要請・指示(潜伏期間、治癒するまでの期間等を考慮)この中で現状効果が見込めそうなのは、一つ目の
・住民に対する予防接種の実施(国による必要な財政負担)
・医療提供体制の確保(臨時の医療施設等)
・緊急物資の運送の要請・指示
・政令で定める特定物資の売渡しの要請・収用
・埋葬・火葬の特例
・生活関連物資等の価格の安定(国民生活安定緊急措置法等の的確な運用)
・行政上の申請期限の延長等
・政府関係金融機関等による融資 等
(ウィキペディアより)
・外出自粛要請、興行場、催物等の制限等の要請・指示(潜伏期間、治癒するまでの期間等を考慮)
あと、このあたり、
・医療提供体制の確保(臨時の医療施設等)
・緊急物資の運送の要請・指示
・政令で定める特定物資の売渡しの要請・収用
それと、
・生活関連物資等の価格の安定(国民生活安定緊急措置法等の的確な運用)
こういうのも実施すればそこそこ効果があるのかもしれない。
と確かにいろいろ可能になるのだけれど、記述の順序からしても最も大きなものはやはり一つ目の「外出自粛要請、興行場、催物等の制限等の要請・指示」だろう。
「自粛要請」
で、やっぱり気になるのが「自粛要請」という言葉。やっぱりというのは、おそらく日本語話者であれば誰でも引っかかるだろうという意味なのだけど、goo辞書では、自粛:
[名](スル)
自分から進んで、行いや態度を慎むこと。「露骨な広告を業界が自粛する」
要請:
[名](スル)
1 必要だとして、強く願い求めること。「会長就任を要請する」
「自ら進んで、行いや態度を慎むことを、必要だとして、強く願い求めること」となる。
もう少し深入りすると、前段の「自粛」は「自分が」という意味が含まれていて、後段の「要請」は「他者が」という意味が含まれている。
だから、「自分が、自ら進んで、行いや態度を慎むことを、他者が、必要だとして、強く願い求めること」。
といった意味になる。この時点でなかなかにトリッキーでファンタジックな日本語である。
とはいえ、例えば子供に対してする「自分から進んで勉強できるようになったほうが絶対にいいよ」というような言い方と似ていると言えば似ている。で、この系列に入ると「自分のことは自分で決めなさい」とかも微妙に接触してくるが、それはまた別の話。
とにかく、どうしても気になってしまう不思議な日本語「自粛要請」だが、日本語として有りか無しかで言えば僕は「有り」だと思う。日本語はそういうちょっと不思議なところがある(他の言語のことはよく知らないけど)。
で、ここから冒頭のアンケートに戻る。
「誰が」「誰に」は不問にしているのか?
特措法における「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」を行うのは内閣総理大臣。
全国的かつ急速なまん延により、国民の生活及び経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態となった場合、内閣総理大臣は「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」を行う(第32条)。
だから「緊急事態宣言をすぐに出すべきだと思いますか?」という質問は、「内閣総理大臣が緊急事態宣言をすぐに行うべきだと思いますか?」となる。
「緊急事態宣言」の中身は前述のように色々あるが、主にイメージされているのは「外出自粛要請」。
厳密には、
都道府県知事は住民に対し外出の自粛を要請できる(第45条第1項)。
だから、外出自粛要請を出すのは知事。つまり、
内閣総理大臣が
緊急事態宣言を行うことで、
知事が住民に対し外出の自粛を要請できるようにすることを
すぐに行うべきだと思いますか?
という質問である。前述のように、自粛要請は、
自分が、自ら進んで、行いや態度を慎むことを、他者が、必要だとして、強く願い求めること
だったので、いちいち書くと、
内閣総理大臣が
緊急事態宣言を行うことで、
住民自ら進んで、外出を慎むことを、
知事が、住民に対し、必要だとして、強く願い求めることができるようにすることを
すぐに行うべきだと思いますか?
という質問を「孫正義氏」が「不特定多数の日本人」でおそらくはこの質問中の「住民」に当たるだろう当人に対して行っているという構造である。
ものごとをあえてややこしくしているのだという自覚はある。僕好みのハイコンテクストな事例なので、しつこくやっている。
一応、オチをつけるためにさらに和訳?して書き換える。
内閣総理大臣(と知事)が、あなたが自ら進んで外出を慎むことを、あなたに対して強く願い求めることができるように、すぐに宣言を行うべきだとあなたは思いますか?かなり分裂している。あるいは、こうかもしれない。
内閣総理大臣(と知事)が、あなたたちが自ら進んで外出を慎むことを、あなたたちに対して強く願い求めることができるように、すぐに宣言を行うべきだとあなたは思いますか?もう少し、あり得そうな解釈を導くために書き換えてみると、
内閣総理大臣(と知事)が、あなた以外の日本人が自ら進んで外出を慎むことを、あなた以外の日本人に対して強く願い求めることができるように、すぐに宣言を行うべきだとあなたは思いますか?
こんなところかもしれないが、だとすると、これは日本や日本人という概念の問題になる。「住民」にあなたは含まれているのかいないのか。あるいは、どれぐらい、どんな感じで含まれているのか。
ともかく少なくとも日本語の問題ではある。
日本語的な言い方をすると、「誰が?」とか「誰に?」とかは、どうやら、とりあえずは、特には、今は、意識し(て)なくて(も)OKなよう。
全体にかなり皮肉っぽくなってしまった。日本語というものへの関心に焦点を当てて、そのうちもう少しすっきりと書き直したいと思います。