どうやらこれは風邪だ。ここ二三日やたらと鼻水とくしゃみがでる。昨夜は東山の和室に泊まるつもりだったけれど、夜になって悪寒がしはじめてこれはまずいと思い帰ってくる。その後から熱が出始め、頭痛を伴う。朝になるとすこし気分が良くなる。まだ鼻水は止まらない。
今日は一日布団に居よう。朝ごはんのような昼ごはんは、東山で食べるつもりだったフランスパンと玉子でオムレツをパンに挟んで食べようとしたら、澪がその玉子でオムライスを作ってくれるというので、パンの方はフライパンで焼いて、澪が最近作ってくれている玉ねぎの塩麹漬けとパルメザンチーズを薄く切って挟んで食べる。オムライスも食べる。風邪をひいてもほとんど食欲が落ちないのは子供の頃から同じである。
今度のゼミの本である三島由紀夫の『金閣寺』を読むことにする。同じゼミで読むことになっている夏目漱石『明暗』、森鴎外『舞姫』は読んでしまっていて、どちらも面白い。さすがに文学史に残るだけあって面白いのである。こんな風に文学史の文学を面白く読めるのは吉本隆明の『言語にとって美とはなにか』を読んだからで、文学を心の底から好きな人の書いたものを読むと文学は面白い。
コーヒーを淹れて飲む。今は午後の穏やかな日差しで、二階の書斎として使っている部屋の窓を開けて風も入ってくる。机に座ってこれを書いていて、もうしばらくはこの風にあたっていても大丈夫そうだけれど、長くやるとまた体に来る。洗濯物が部屋の中にも干してあって、これが自然と乾くように風邪も治ってほしいと思っている。
風邪を引いた時に風にあたるといつも同じ匂いがする。子供のころ一度風邪を引くと3日は寝込んでいて、一度咳がはじまるとどうしても止めることができず咳が出続ける。そうしてしまいにはおえおえと喉を鳴らして吐く。だからなんとか一つ目の咳が出ないように我慢をするのだけれど、でも我慢しきれずに咳がはじまる。そんな感じで一日経てば枕元の洗面器はでろでろとしたカエルの卵のようなものが交じる水でいっぱいになる。そういう時にいつもこの匂いが鼻の中にしている。鼻の中だけれど、風が吹いた時にそれがよく感じられるから風の匂いでもある。嫌な匂いかというとそういうわけでもない。それでも、この匂いは自分が今、病気なのだと思わせてくれる何よりの証拠である。そろそろ布団に戻る。