July 20, 2015

【203】単なる怒り(いかり)。

手加減を全くしないで物を投げて砕け散る。

完全に自分の自由になる、
反論することも逃げることもないものを
一方的に破壊する。

人が怒りの中にあるときは、
人が怒っているというよりは、
怒りというものが人の形をとっている。

単なる怒り。
誰が怒っているのかは無く、
何に怒っているかも無い。
ただ怒りがある。

そういう出来事としての怒りに僕はほとんどなることが無い。
ほとんどというのは言葉の綾で、
本当は思い出そうとしても思い出せないぐらい、
怒りは僕にとって、
部分でしか無くあり続け、
要素でしか無くあり続けてきた。

常に複層的に重なっている僕というものの一層でしかなく、
それがどれほど強かろうと、
何層かのうちの一層か二層か。
数種類の鳥と数十種類の草と数百種類の虫と、
が一目で見渡せてしまう庭のように何層にもなっている僕の。

だから、ただの怒りという出来事に出会って僕は戸惑い、
僕自身がそうなること、
キャンバス全てを一色で塗りつぶしてしまうようなことには、
強く嫌悪と警戒を覚える。
その上でなぜか羨ましい。

単なる怒りとしてしか引き受けきれない何かがあるのだと見える。
引き受けるというのは全てをである。
一神教の神のように。


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