ポケットの中、 小さな「火」を持ち歩く。 |
ハクキンカイロ。
存在は知っていた。昔、父親が使っていたという話を母親から聞いたことがあった。カイロ本体を見た記憶はないけれど、中に入れるベンジンの瓶は長く実家の洗面所の棚に放置されていた。今でも新品を売っているとは思ってなかった。
澪と2つ購入。届いたので早速使ってみる。
まずベンジンを注油、と言ってもベンジンを燃やすわけではなく、触媒作用で二酸化酸素と水に分解される際の酸化熱を取り出す仕組みで、その原料となるベンジンを注いで入れるのだけど、あぁ、これはいいなと思った。万年筆にインクを吸い上げるのと似ていて、僕の好きな作業。もしハクキンカイロが、燃料を直接入れるのではなくて、カートリッジタイプだとしたら、きっと買わなかったと思う。
ある一定分の「何か」を補充して使う物には、その一定分の自由を手に入れる感じがあって、それがカートリッジになってしまうと、そのカートリッジという規格に縛られて自由が減る。家庭に引かれている電気やガス、水道といった「パイプ」で接続されているタイプの物はさらに強固に縛り付けられている感じがする。「インフラ」とはこの「パイプ」のことで、だからインフラは常に束縛を伴う。テレビやネットといった無線インフラは、物理的には緩和されてはいるけれど、「圧力を伴って注ぎ込む」機能は、パイプと同じで心理的には束縛を受ける。
それはさておき、ハクキンカイロは、満タンにすると24時間保つ。毎日、決まった時間にベンジンを入れるのが冬場の暮らしの作業の一つになると思うと楽しい。
今もはんてんのポケットに入れて、時々指を温めている。