June 25, 2015

【192】岡本勝『禁酒法 「酒のない社会」の実験』

アメリカ合衆国憲法修正第一八条、いわゆる「禁酒法」は、1919年に確定し1933年に廃止された。14年間の「高貴な実験」は何だったのか。
十九世紀末に誕生した反酒場連盟の指導者と、それを支援した企業家などプロテスタントを中心とした市民ーーその多くはワスプーーが、禁酒法運動を通して求めたものは、一言でいえば「改革」だった。それは、十九世紀的社会から二〇世紀的社会への変化に対応するためのものと見ることができる。十九世紀のアメリカは、産業革命が始まり、都市化の進行など近代化を経験したが、基本的にはいまだ小社会的な地方の時代だった。[199]
第一八条とヴォルステッド法が目的としたものは、酒造業者と酒場を淘汰すること、そして一般国民、特に労働者階級に属する人びとの飲酒量を減らすことの二点で、これらの改革は紛れもない社会統制の側面を持ち合わせていたのである。[202]
腐敗の温床としての酒場を淘汰すること、機械化が進む産業社会に労働者を適応させるために「素面」を徹底させること。だとしたら前近代は、もっと「酔った」社会だったのか。実はそうらしい。
産業革命以前のアメリカ社会では、農場や仕事場で一日二回の休息時に酒を振る舞う習慣があり、これは賃金の一部と見なされた。しかし、黎明期とはいえ効率を重視する産業社会において、この「酒類配給(ラム・レーション)」は、黙視できない悪習と考えられた。[26]
本書はあくまでも「禁酒法」の範囲での記述だから、以下は僕の妄想だけど、前近代的な社会は今よりもっと、全体的にぼーっとしていたのではないかと思う。

仕事中の酒も、考え事も、うたた寝も、くだらないおしゃべりも、今よりもっとありふれていたのではないか。

今日も暑くなってきた。風に吹かれて、眩しい窓の外を遠くに見ながら、昼寝をするのも仕事のうちだったのではないか。




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