November 16, 2018

【495】電車のなかの乳児。(生後71日目)

京阪特急に三条から乗ると隣に白人男性が座っていた。白人男性は、画面のエッジがカーブしたカッコいいスマートフォンを親指をじわっと動かしながら片手でテキストを読んでいる。カッコいいと思ったのは、エッジの丸みではなくて、表示された英文字の並びのせいかもしれない。もうすぐ中書島に着くというときに、男性のさらに隣の日本人女性がその場に立ち上がった。女性は前抱きに赤ん坊を抱いて少し揺すっている。すると白人男性が、膝の上に載せていた白いトートバッグから哺乳瓶を出してスティックの粉ミルクを入れ、サーモスみたいな保温水筒からお湯を注ぐ。手慣れた感じがするが、乳児用品が詰め込まれたトートバッグのなかを背中を丸めてゴソゴソやるのは窮屈そうだ。平日四時台の特急はそこそこ混んでいる。何度か哺乳瓶を振って粉を溶かし、温度を確かめてから、女性の手元に軽くぶつける。女性は視線を向けずに手だけで受け取って赤ん坊に飲ませる。赤ん坊は無事、ミルクにありつけた。哺乳瓶に出来上がったミルクの量とピンクがかった赤ん坊の後頭部の感じから、たぶん新(あらた)と同じくらいの月齢じゃないかと推測する。赤ん坊を連れて電車に乗りなれているのか装備品や連携に危なげがない。中書島で僕は降りたが彼らは降りない。一言も二人の会話を聞かなかったし、一瞬も赤ん坊は泣かなかった。何も起こらなかったが、何かが張り詰めていた。



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